(2022年のTea with Dress Diaryからリライトしました。)
料理研究家・栗原はるみさんの名著「ごちそうさまが、ききたくて。」をめくりながら、忘れかけていた思い出の家庭料理を辿るエッセイ。NHKのドキュメンタリーをきっかけに、母との共同作業で懐かしの「さばそぼろ」を再現する様子を描き、料理本が持つ温かさや、家族の記憶を呼び覚ます力を再認識します。
料理研究家・栗原はるみさんへの想い
先日、NHKのBSで、料理研究家の栗原はるみさんのドキュメンタリー番組の再放送を拝見しました。ご主人様を亡くされてから、テレビで拝見するたびに、勝手ながらお元気でいらっしゃるか心配していました。
しかし、この番組を観て、その心配は杞憂に終わりました。ご主人様への深い愛に満ちたその姿は、私の心を清らかにし、大きな感動を与えてくれました。
番組を観終わった後、私は久しぶりに本棚の隅にある栗原はるみさんの名著「ごちそうさまが、ききたくて。」を手に取りました。

それは、母がかつて愛読していた本で、たくさんの付箋が貼られたままでした。母が料理に熱中していた頃の付箋は、少しめくりにくくなっていましたが、ページをめくるたびに、懐かしい写真や料理の数々が目に飛び込んできます。
母との思い出を呼び覚ます「さばそぼろ」
母と二人でレシピ本を振り返っていると、ある料理に目が留まりました。それは、当時母が気に入ってよく作ってくれた「さばそぼろ」です。

「最近は作ってないわね」
そんな言葉がきっかけで、私たちはスーパーで新鮮なさばを買い、久しぶりに一緒に台所に立ちました。我が家では、その日のメニューに合わせて母と私が分担して料理をしますが、魚料理が苦手な私に、母がさばの捌き方や骨の処理を教えてくれました。身をスプーンでこそぐという、はるみさんならではの簡単なレシピに、当時母が夢中になっていた理由が改めて分かります。
久しぶりに食卓に並んださばそぼろは、食べやすくてとても美味しく、忘れていた昔の思い出話に花を咲かせる、和やかな時間となりました。

時を超えて愛されるレシピ本の力
「ごちそうさまが、ききたくて。」は、ある意味でその時代の家庭料理のブームを作ったと言えるでしょう。グルメブームが盛り上がっていた当時、栗原はるみさんのレシピはとても分かりやすく、手軽に多国籍な料理に挑戦できると多くのファンを魅了しました。
20年ぶりにこの本を見返すと、和食だけでなく、チリコンカンやビーフシチューなど、様々な料理が家庭でも作れるように工夫されていることに改めて気づかされます。実際にさばそぼろの他にもビーフシチューを作ってみましたが、とても美味しくできあがり、このレシピ本の普遍的な価値を再認識しました。

ロンドンの書店で、日本語版の栗原はるみさんの本が並んでいるのを見た時、彼女が世界的に成功していることを肌で感じました。料理番組やレシピ本、雑誌、レストラン経営、オリジナルキッチン道具のプロデュースなど、多岐にわたる事業を展開する姿は、まさに日本のマーサ・スチュアートと言えるでしょう。
「ごちそうさまが、ききたくて。」は、単なる料理本ではありません。家族の温かい思い出と、食卓を囲む喜びを教えてくれる、最強の一冊なのです。